仲の悪かった兄が死んだ。その結婚相手の家から届いた一通の手紙。 兄の代わりの残された次女と婚姻を結んで欲しいと書かれていた。 もちろん無視をすることに決めた。 手紙の内容を悪い冗談だと決めてかかっていたこともある。 それ以前に、幼い頃から出来の良い兄と比べられることに辟易していた。 その兄が死んだ……？ 悪い冗談、もしくは『そんな都合の良い事態は起こらない』と思えたのだ。 それから数日が経ち、オレは海の底に。 予備校の講師だった俺は、教え子に手を出し、傷物にしたという理由で、娘の父親に海に沈められてしまった。 噂には聞いていた。 華那がお嬢様でその父親は財界の実力者。裏社会の顔役と噂の絶えない人物であるらしいことも。 でも、まさか……まさか現代のこの日本で「娘を傷物にした」という理由だけで、 海に沈められるハメになるとは……。 自分自身、その現実を受け止められないまま、オレは心配機能が停止する薬物をうたれ、 そのまま海へと沈められてしまったのだ。 ……そう、オレは海に沈められたはずだった。 しかし、気が付けばオレはいつものアパートの一室。 自分の部屋の布団の上にいた。 目の前には美しい女性……と呼ぶには少し若いだろうか？ その女性は『摩州水樹 （ましゅう みずき）』と名乗った。 オレの兄と結婚した女性の妹だと。 そして、兄の死を告げた手紙は全て真実だと言う。 普段のオレであれば取り合うことはなかっただろう。 だが、今のオレにははっきりとした漢学があった。 時計の針は11時。 もう間もなく、華那から呼び出しの電話がある。 その電話に呼び出されたオレは……？ そして、オレは……太平洋の孤島『波手乃島』へ。 この島に渡り、水樹との婚姻の儀式の後、オレはある力を手に入れる。 この島限定だが人の意識を操ったり、ちょっとした奇蹟程度ならおこせるらしい。 東京でのオレは、他人の意思次第で消されてしまう虫けら。矮小な存在だ。 だが、この波手乃島ではオレこそが支配者なのだ。 復讐もそれ以上の道も自分で選べばいい。 そう、今のオレは運命を選べる。 それどころか、他人の運命さえも取捨選択できる。 まるでトランプのカードを切るように。 それにオレには立派な理由がある。 『水樹との幸せな生活を守る』 敵対するヤツが悪い、オレに恨みを買う方が間抜けなのだ。 これはゲームだ。『DOMINATION《支配》』するための。 どのカードを切り、どのカードを手に入れるか……？ どの娘を生け贄とし、どの娘を手に入れるか？ それ次第でオレの運命は変わる…… さあ、ゲームを始めよう。 …… フン ・ グル ・ イム ・ グル ・ ウナフ …… 碧き海に眠る神が退屈しないように。